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師範 大地(30代・元物流現場職)

口座開設から最初の1本、積立を止めないまで

用語

NISAで売った枠は、今は翌年に戻る。同じ年に戻す案が令和9年度の要望に入った。簿価で数える総枠1,800万円を倉庫の棚で整理する

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執筆:大地公開:カテゴリ:用語

木の机に置かれた、一部が空いた仕切り棚と無地の小箱、白紙のノートと鉛筆、お茶のカップ
木の机に置かれた、一部が空いた仕切り棚と無地の小箱、白紙のノートと鉛筆、お茶のカップ

新NISAで投資信託を売ると、使っていた枠は戻ってくる。ただし戻るのは翌年で、売った年のうちは使えない。金融庁のNISA特設ウェブサイトは、売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ、翌年以降に非課税保有限度額が復活すると説明している。この「翌年」を「同じ年のうち」に変える案が、金融庁の令和9年度税制改正要望の1番「NISAの利便性向上等」に入った。要望の段階で、決まるかどうかは12月の税制改正大綱を待つことになる。倉庫で12年、出庫した棚がいつ空くかを数えてきた自分が、総枠1,800万円・年間360万円・簿価という3つの物差しで、売った枠の戻り方を整理する。

大きな倉庫の建物のイラスト

新NISAの枠は、2つの物差しで数える

金融庁のNISA特設ウェブサイトによると、2024年からのNISAには枠が2種類ある。1つは年間投資枠で、つみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円、併用して年360万円まで。もう1つは生涯の非課税保有限度額で、上限は1,800万円、そのうち成長投資枠は1,200万円までだ。

物差し上限売った時の戻り方
年間投資枠(つみたて)年120万円戻らない(毎年1月に新しく付く)
年間投資枠(成長)年240万円戻らない(毎年1月に新しく付く)
非課税保有限度額(総枠)1,800万円(成長は1,200万円まで)簿価の分だけ翌年以降に復活

倉庫でいえば、年間投資枠は1年間に入荷できるトラックの台数、総枠は倉庫の床面積だ。トラックの台数は毎年リセットされ、床面積は出庫すれば空く。この2つを1つの数字だと思っていると、売った後の計算を間違える。

2023年までの一般NISAやつみたてNISAで買った分は、1,800万円の外枠で管理される。古い倉庫の在庫は、新しい倉庫の床面積には数えない、ということだ。

売った枠は、簿価の分だけ翌年に戻る

荷物を載せる樹脂のパレットのイラスト

金融庁の同じページには、総枠の再利用について次の注意が並んでいる。年間投資枠と総枠は簿価をもとに計算する。売却した場合に翌年復活するのは簿価の金額。NISA口座の商品を売っても、損益がなくなるわけではない。

簿価は、買った時の金額だ。100万円で買った投資信託が120万円に値上がりしてから売っても、翌年に戻る総枠は100万円になる。逆に80万円に値下がりしてから売っても、戻るのは100万円。床面積は、出庫した時の値段ではなく、入庫した時の伝票の数字で空く。

自分が最初に混乱したのは、ここで「戻る」のが総枠だけだという点だった。売った年に、その年の年間投資枠が増えるわけではない。翌年の1月に戻った総枠を使うにも、その年の年間投資枠360万円の範囲で買い直すことになる。

令和9年度の要望は「当年中の復活」

財務省のサイトに載っている金融庁の令和9年度税制改正要望の1番は「NISAの利便性向上等」で、税目は所得税。要望の内容はこう書かれている。

非課税保有限度額の当年中の復活や、つみたて投資枠における要件の整備等、NISA の利便性向上等にかかる所要の措置を講ずること。金融庁「令和9年度税制改正要望事項」01より

期間は恒久措置、平年度の減収見込額は「―」で、金額は書かれていない。理由の欄には、令和8年度税制改正でつみたて投資枠の年齢要件の撤廃などが行われたことに触れたうえで、実務的な改善を通じて利便性を上げる必要があるとある。

要望の文にはもう1つ、「つみたて投資枠における要件の整備等」も書かれている。ただし、どの要件をどう整えるのかは、要望書のどこにも具体的に書かれていない。中身が分からないものを先回りして解説するのはやめておく。当年中の復活のほうは、何がどう変わるかが文から読めるので、この記事ではこちらだけを扱う。

要望書にある数字値
NISA口座数(2025年12月末)2,821万口座
NISA買付額の合計(同)71.4兆円
政策目標(2027年末)3,400万口座・買付額56兆円

買付額は2025年末の時点で目標の56兆円を超えている。口座数はまだ届いていない。要望の経緯欄には、平成21年度改正のNISA創設から令和8年度改正まで、18回分の改正が1行ずつ並んでいた。NISAは毎年少しずつ手直しされてきた制度で、今回もその流れの1つだ。

手順1 自分の総枠を、簿価で数え直す

棚卸しをする男性のイラスト

当年中の復活が自分に関係あるかは、総枠の残りで決まる。証券会社の画面にある「非課税保有限度額の利用状況」を見て、使った額を簿価で確かめる。評価額の欄と取り違えないことが大事だ。

画面の見方で迷うのは、同じページに「評価額」「取得金額」「利用可能額」が並んでいることだ。倉庫の在庫表でいえば、売価で付けた在庫金額と、仕入れ値で付けた在庫金額が隣り合っている状態に近い。総枠の計算に使うのは仕入れ値のほう、つまり取得金額だけだと決めておくと、表を見るたびに迷わずに済む。

自分は毎月10日に月3万円を積み立てている。年に36万円なので、1,800万円の総枠を埋めるには計算上50年かかる。年間投資枠の360万円にも、総枠の1,800万円にも当分届かない。自分のような積立だけの人にとって、枠が戻るのが翌年か同じ年かは、ほとんど差が出ない。

手順2 同じ年に戻ると変わる人を確かめる

差が出るのは、総枠がほぼ埋まっている人だ。たとえば総枠を1,700万円(簿価)まで使った人が、3月に300万円分を売ったとする。

その年に買い直せる額今のルール(翌年に復活)当年中に復活した場合
総枠の残り100万円400万円
年間投資枠360万円360万円
実際に買える上限100万円360万円

今のルールでは、売った300万円分の総枠はその年には使えず、買い直せるのは残りの100万円まで。同じ年に戻るなら、年間投資枠の360万円が上限になる。どちらの場合も、年間投資枠を超えては買えない。要望書は総枠の復活を求めていて、年間投資枠を増やす話はしていない。

教育資金や家の頭金で一度まとめて引き出し、その年のうちに積立を立て直したい人には効く。倉庫でいえば、急な大口出荷で棚を空けた日に、同じ週のうちに次の入荷を受けられるかどうかの違いだ。

逆に、売る理由がはっきりしない人にとっては、同じ年に戻るようになっても使い道は少ない。商品によっては、売る時に信託財産留保額が引かれたり、買う時に購入時手数料がかかったりする。売り買いの回数が増えれば、その分だけ費用も積み上がる。枠が早く戻ることと、売り買いを増やしてよいことは別の話だと自分は考えている。

手順3 12月の大綱まで、今のルールで動く

何も書かれていないカレンダーのイラスト

要望は、各省庁が財務省に出す「お願い」の段階だ。採否は例年12月にまとまる与党の税制改正大綱で決まり、決まっても始まる年は法律と金融庁の案内を見るまで分からない。自分は次の順番で動くことにした。

  1. 今年売るかどうかは、翌年に戻る今のルールで判断する
  2. 総枠は簿価で数え、評価額で数えない
  3. 12月の大綱が出たら、「非課税保有限度額の当年中の復活」の文言が入ったかを確かめる

未経験のうちは、制度の変更の話を聞くと、すぐに何かを動かしたくなる。自分も休憩室で先輩に「NISAがまた変わるらしい」と言われて、積立の設定画面を開きかけたことがある。決まっていない変更のために、決まっている積立を止める理由はない。

本記事は2026年10月時点の金融庁NISA特設ウェブサイトと金融庁の令和9年度税制改正要望(財務省サイト掲載)、筆者の経験に基づく一般的な情報提供であり、特定の金融商品の勧誘や推奨、個別の税務助言ではありません。非課税保有限度額の当年中の復活は要望段階で、採否や開始時期は決まっていません。計算例は単純な仮定によるものです。投資信託は元本割れの可能性があります。最新の制度は金融庁や金融機関の案内でご確認ください。
出典

大地 30代。物流倉庫の現場で12年。2年前に未経験から新NISAを始めた。数字は金融庁の資料と目論見書で確かめてから書く。

投信用語 15問稽古

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    用語の説明は一般的な意味です。個別の商品の条件は各商品の目論見書でご確認ください。